横手 由男

放浪することが
生きることだと、画家は
思った、 絵の具も買えない
キャンバスも買えないときが
あった。

丹後、若狭を歩いて
地蔵さんや、観音さんを
描いてゆきました。
ようやく心が満たされて
きました。

小豆島の精薄児施設で
子供達と向き合った、
彼らを描いていると
自分の心の弱さを知った

彼らはうそは言わない、
うそをしらないのだ
そう思った、

天使だと思った。
自然とお地蔵さんや
観音さんになっていった
いつか彼らが幸せになって
いることをねがっていた

良い絵をかこうなんて
思ったことはなかった

絵が描けるそれだけでも
幸せだと思った、

絵の具が無いときは墨だけ
でかいた、墨がにじんだ
泪が絵の上に落ちたこともあった

幾たりか葬祭のあとについて
お線香もあげた、
いつか自分もと
思うと手を合わせずには
居られなかった。

一年二年と放浪は続いた、
丹後若狭の冬の海は荒れ狂う
怒濤のような海だった、
ああこれも描いて置かなければと
おもった。





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