谷中安規
安規が歌っている

蓄音機の前で、かしこまって

歌っている、

どんな声、どんな歌

版画の中に閉じこめられた

自画像からは何も聞こえて

こない

声は木くずとなって丸まって

小さくなって消えてしまった

祭りが好き、桜が好き、

花が開くとじっとしてい

られなくなって何処でも

飛んでいってしまった、もっと

早くいかなくちゃ

祭りも桜も

おわっちゃうからと

何時のまにやら安規の

自転車は空をとび夕方の空に

向かって走っていった

雨が降ろうが雪の日だろうが

素足に下駄履き、からころころと

ころがしてどこでも歩いて

いったようだよ、

そのうちきっと

空も飛べるから、出来る限り体も

軽くして置かなくちゃっね

羽根が生えてくるかもしれない

夜になると体中でどんちゃん

騒ぎがはじまってね

そのうちなんでも

口からでてくるんだよ、

蝶や蜻蛉や

花までも、ふわっと広がって

飛んでゆく

まわりはお花畑だ、蝶々も

ひらひらとんでいる、

眠れない夜が続いてくると

サーカスが

ジンタを鳴らしてやってくる、

おいらの頭のなかではショータイム

たくさん動物が出てくるけれど

みんなすまして得意顔さ

人間みたいに煙草もすって

廻ってみせればおおうけさ

でもいつも終わると寂しいんだ

みんな帰ってしまうから、

遠く光るお月様みながら泣いてる

ときもあったりするね

でも子供はすきだったよ

生き生きしてるからね

たくましい命を版画にして見ると

これが一番と思うのだけれど

妄想とやらがあたまをもたげる

妖怪、お化け、目玉の

怪物なんでも

でてきて俺に彫れとせかすのさ

部屋の中は木っ端だらけで

その中に寝てると

なかなかぬくいけども、

食べるものも無くなった

空から爆弾も降ってくる、

あちこちがあかあか燃えて

ぴかっと光っていたりする

闇の中に閃光が突き刺さってる

とてもきれいにみえたりする、

花火のようだ

どこにも行き場が無いとはいえ

ときおり遠くから汽笛が

聞こえてくる

汽車にのって旅をしたあの空の

向こうはもう焼け野原になって

いるかもしれない

とうとう版画の木もなくなった

1日寝てることには慣れたけど

それはそれでいいのかも

そろそろ眠ろうかな





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